2019年01月15日

第22話「奇跡の水たまり」

 1988年、沖縄県主催の文化・スポーツイベント「サントピア沖縄」が初めて開催された。
その中で私は、全国の太鼓団体、芸能に呼びかけ、歌と踊りの島沖縄で文化交流の輪を広げるのを目的として“国際太鼓フェスティバル”を企画した。琉球國祭り太鼓2代目会長、照屋辰弘氏に「目取真君、原稿用紙1枚に心を伝える文章を書きなさい」と言われ、私は今まで出会った感動のひとこまひとこまを手書きの趣意書にしたため、全国各地の太鼓団体、芸能団体に送り呼び掛けたところ、幻龍會神輿や炎太鼓など、8団体が参加してくれることとなった。
 国際太鼓フェスティバルに参加する方々を迎える国際通りでの感謝の大パレードの日。この日は大雨で、パレードを実施するかどうか協議が行われていた。私も正直「こんな雨ではどうしようもない」と思いながら、協議の結果を聞きに行こうと思い、横にいた2代目指導部長の仲間勉に「傘はないか?」と聞くと、彼は水たまりを指さし「メンバーが一人でも濡れていたら、水たまりにでも入るのがリーダーだ」と私を見た。その言葉を聞いた私は大雨の中のパレードの参加を決め、メンバーに「雨は人を濡らすが、人の心までも濡らすことはできない」と言うと、メンバーは大雨の中、国際通りに踏み出し、エイサー太鼓を打ち鳴らした。太鼓を濡らしながらも演舞する祭り太鼓メンバーの姿を見て、それまで太鼓にビニールをかけて演技をしていた太鼓団体もビニールを取り、本来の太鼓を力強く打ち響かせた。大雨の中で男たちの「粋」を感じた瞬間であった。
posted by ryukyukoku at 16:20| 第1話〜